みんなを料理沼に叩き込む。「入れるだけ」から「上級手前」まで、リュウジさんがバズレシピを開発する理由

クリエイターが集まるプラットフォーム「SUZURI(スズリ)」では、さまざまな創作でご活躍中のクリエイターに、「表現をすること」をテーマにお話を伺っています。

今回のゲストは、料理研究家のリュウジさんです。「バズレシピ」のキャッチーな文体や気負わずできる料理で人気を博しているリュウジさんですが、実はひと手間かけたレシピも紹介しています。いろんな難易度のレシピを開発する理由や、料理に興味がない人にも届けるための工夫などを伺いました。

<リュウジさん>
千葉県出身。料理研究家、株式会社バズレシピの代表取締役。TwitterやYouTubeなどさまざまな媒体を活用し、料理初心者も思わず試したくなる幅広いレシピを紹介している。レシピ本も多数出版しており、最新刊は『バズレシピ 史上最強の痩せめし編(扶桑社)』。
リュウジさんのホームページ|バズレシピ .com

バズったほうが、効率よく経験値を稼げる

――簡単ですぐにできるリュウジさんの「バズレシピ」は、もはやSNSで見かけない日がないほどです。拡散される投稿を意識するようになったのは、「大根の唐揚げ」レシピで初めて“バズった”のがきっかけなんでしょうか?

リュウジさん(以下、リュウジ):いや、その後何度かバズってフォロワーが1万人になった頃、レシピ本出版の声をかけられまして。そのとき「本を出すならフォロワーを10万人にしてください」と言われて腹が立ち、「やってやろう!」と思ったのがバズを意識したきっかけですね。結局、達成後もその出版社から本は出してないんですけど(笑)。負けん気が強いんです。

僕はなんでも目標への最短距離を進むところがあります。趣味のゲームでもそうしてきたように、仕事でも効率よく経験値を稼ぎたい。「料理人口を増やす」という目的達成のためにも、「どうせレシピを出すなら話題になったほうがいい」という考えはありました。

――過去の「バズレシピ」投稿を見ると、初期の頃から今の文体に通ずるところがあるように思います。文章のトーンは、どのように決めましたか?

リュウジ:自分の肌感覚を重視しました。僕、本当にネット歴が長いんです。中学生ぐらいからずーっとネットの世界にいるので、もう20年以上。その経験から「こうすれば人の興味をひけるはずだ」と、なんとなくわかりました。

根っからのオタクだから、好きなものを布教したい

――さまざまな重鎮がいる料理の世界。きっとみなさん重視するものや、とる戦略が違いますよね。

リュウジ:そうですね。僕は、料理を普段しない人に向けたレシピを多めに開発しつつ、料理慣れしている人には新たな発見があるレシピも開発しています。この2つを両立している料理家って、僕しかいないんですよね。

――なぜその独自の道を歩めたのでしょうか?

リュウジ:自分の料理に関するブランドが、どうでもいいからですかね。例えば「ていねいな暮らし」のイメージができている料理家さんは、そのブランドに反する「ごま油を垂らすだけでうまい!」みたいな料理は発表しにくいと思うんです。

でも、僕は「料理が丁寧」「技術がある」といったブランドはいらないし、「インスタントな料理をする人」というイメージがついてもいい。だからこそ、簡単な料理とちょっと手の込んだ料理、どちらかに絞らず両方できるんです。

それに、僕は自分の味がどう評価されるかにも興味がないんですよね。

――そうなんですか!?

リュウジ:まあ、もちろん「うまい」って言われたほうが嬉しいですけど(笑)。重要なのは料理人口を増やすことだから、僕という料理家がどう思われてもいいんです。

僕は根っからのオタクなので、自分の好きなものを布教したいんですよ。料理が好きだから、料理する人を増やして、もっと料理の話をしたい。ただそれだけです。

――リュウジさんのレシピには、「簡単だし面白そう、作ってみよう」と思わされるエンタメ要素を感じていました。それも料理人口を増やすという目的があるからなんですかね。

リュウジ:そうですね。僕はライト層から取り込んで、みんなを料理沼に叩き込もうと思っているんです。まずは簡単なレシピで、これまで料理してこなかった人を料理沼に引きずり込む。そこで料理にハマったら、ちょっと難しい中級のレシピ、次は上級のレシピ……って、だんだん凝ったものを作りたくなるはずなんですよ。

どの段階でもレシピ探しに困らないように、ごま油をかけるだけのレシピから下茹でする丁寧なレシピまで、僕は全部出しているんです。

使う食材は「どこのスーパーでも買えるもの」

――リュウジさんは、YouTubeにレシピ動画を投稿されています。これまで料理をしてこなかった層に届けるための工夫を教えてください。

リュウジ:必ずエンタメ要素を入れるようにしています。僕は世の中、料理が好きじゃない人がほとんどだと思ってるんです。そういう人にとって、淡々と料理をするだけの動画は面白くないし見ないでしょ?

だから、例えばちょっとテンション高めで料理するなど、料理以外での仕掛けを多く作っています。暗い顔でやっていたら、絶対にバズらなかったと思いますよ。

――レシピは初級から上級の初歩まで幅広く開発しているとのことですが、どのレベルでも共通して心がけていることはありますか?

リュウジ:「ひと口でうまいと思わせる味」にすることですね。最初においしいと思わせないと、2度目を作らなくなっちゃう。だから全部、飲食店のような濃いめの味付けにしています。

僕の味をわかっている人の中には、毎回少し調味料を減らして作っている人もいるようです。調理法を生かしながら、調味料の量は好みに合わせて調整してもらえればと思いますね。そうやって自分に合った調整具合を身につけている人がいるからこそ、自分はブレずに今の味付けを続けていこうと思ってます。

――「バズレシピ」開発のためには、あまり料理をしない人の感覚を持ち続けることが必要になりそうです。そこはどうやって維持しているんでしょう?

リュウジ:プライベートで料理を研究するときは、基本的に自分でスーパーに足を運んで買い物するようにしています。そのために、スーパーの隣に家を買ったんですよ(笑)。

――たしかに、リュウジさんのレシピに使われている食材って、どのスーパーでも買えそうなものが多い印象です。

リュウジ:そこは強く意識してますね。場所が変わると作れないものじゃ意味がない。だから、スーパーによって品揃えに差がある魚の料理はほとんどしないんです。ハーブも普段は乾燥ハーブが中心で、フレッシュなハーブは「至高のレシピ」でやっと使うぐらいですね。

でも、僕も人気が出てきたから、最近は「これは買ってね」と伝えると、みんなが買ってくれるんですよ。最初はオイスターソースさえ使わなかったから「味が単調」って言われてたんだけど。おかげで今ではオイスターソースに豆板醤、甜麵醬もレシピで使えるようになりました。

――信頼を得た結果、レシピの自由度が上がっているんですね……!

「一番おいしい」にこだわる必要はない

リュウジ:料理って、手間をかけると「手間をかけた味」になるんですけど。それと「おいしいかどうか」って、別の話だと思うんですよね。

――詳しく聞きたいです。

リュウジ:僕はレシピを考えるときに、いろんな技術を深掘りした上で、必要ないものを切り捨てているんです。そうすると「切り捨てた味」「簡単な味」になるんだけど、それはそれで完成した「おいしい」味なんですよ。

でも、料理の面白さを知っちゃうと、人によっては「手間をかけた味」=「おいしい」だと思ってしまう。これって、実は良くないことですよね。毎回手間をかけないと、おいしく感じられなくなってしまうわけだから。

――料理が負担になってしまうときがあるかもしれませんね。

リュウジ:僕は、「手間をかけた味」もおいしいし「簡単な味」もおいしいと思う自分の物差しを、絶対になくさないように気をつけています。インド料理店のスパイスに凝ったカレーも、家で食べる普通のカレーも、食べたくなる場面がそれぞれあって、どちらも「おいしい」。さまざまなおいしさを肯定できるのが真のグルメだし、そのほうが料理することも楽しめると思うんですよね。

それから、料理に関しては「一番おいしい」にこだわる必要はないと思っています。僕は牛肉ならステーキが一番好きですが、だからと言ってそればかりでなく、すき焼きもしゃぶしゃぶも牛丼も食べたい。料理はバリエーションがあったほうが、人生を楽しめるんです。だから、たとえ「一番おいしい」と思われなくても、全部の料理にすごく価値があると考えています。

――では、リュウジさんのレシピで料理を始めた人が、バリエーションを求めて他の料理家さんのところに羽ばたいていくのもウェルカムですか?

リュウジ:当然です。むしろそうやって別の味を探していくのが健全ですよ。でも、料理を突き詰めていったら、「なんかリュウジのメシもたまに食べたくなるんだよなあ」ってときが来ると思いますよ。

「好きを仕事に」しなくてもいい

――リュウジさんは、「好きなことを仕事にした」というわけではないそうですね?

リュウジ:僕は人に求められることをしてきただけですね。いろいろと戦略は立てたけど、「夢を叶えた」みたいな大それたこともなく、なりゆきで今に至ったような感覚です。「好きなことを仕事に」と強制するような風潮は大嫌い。だって、大抵の仕事は好きなところも嫌なところもあるものじゃないですか?

僕だって、料理は好きだけどだるいときもありますよ。好き勝手に「南イタリアの郷土料理作ります」ってやってたら、バズらないもん(笑)。結果的に好きなことができる時間を作れたら、それでいいんじゃないですかね。

――では、仕事か趣味かを問わず、インターネットを主軸に活動するクリエイターにとって、大切なことは何だと思いますか?

リュウジ:それはやっぱり、「何をしたいか」に尽きますよね。僕の場合は、「料理の話でみんなと盛り上がりたい、そのために料理する人を増やしたい」という思いを持ち続けています。それをやっていったら、後からお金も稼げるようになった。

多分、僕は今「稼げる料理研究家」の第一線にいると思うんです。法人化して仲間の生活がかかっているから稼ぐ必要もあるというのも事実ですが、僕がしっかりお金をもらうことで、後々同じ道を進む人たちがこの職業に夢を持てたり、彼らにとって働きやすい環境ができたりするはずだとも考えています。

――業界トップ層の報酬が低いと、全体の相場が下がってしまいますもんね。バズを仕掛け続け、周りが求める形に合わせていけるのは、向上心や「成り上がるぞ!」というマインドがあってこそなのかなと思っていたんですが……リュウジさんの感覚は少し違いそうですね。

リュウジ:僕自身は、いつ今の立場がなくなってもいいと思っているぐらい、あんまり欲がないんです。フォロワーを増やせと言われて負けん気を出したときも、「今後出てくる料理研究家に対しても、同じナメた扱いをされたら嫌じゃね?」と感じたのが1つの理由でしたし。自分のことより、社会やこの先出てくる料理家がどうなるかのほうが気になりますね。

――そんなリュウジさんが、今後やっていきたいことはありますか?

僕はモノを作る人が一番偉いし、その努力が報われるべきだと思っています。広告代理店などの一緒に仕事をする人に助けられる面ももちろんありますが、あくまで「生み出す人」が一番いい思いをしないとダメだと思う。だから、そんなクリエイターファーストの世の中を作るために自分ができることは、今後も続けていきたいですね。

<取材・編集 小沢あやピース株式会社)>
<構成 佐々木優樹
<撮影 小原聡太

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