クリエイターが集まるプラットフォーム「SUZURI(スズリ)」では、さまざまな創作でご活躍中の著名人に「表現をすること」について伺うインタビューをお届けします。
今回のゲストは夢眠ねむさん。「これからの本好きを育てる書店」として完全予約制で営業する「夢眠書店」店主で、キャラクタープロデューサーとしても活動されています。ミントグリーンのたぬき・たぬきゅんと仲間たちによるユニット「たぬきゅんフレンズ」が誕生したきっかけや、夢眠さんのもの作りに対する思い、その原体験について伺いました。
<夢眠ねむさん>
書店店主 / キャラクタープロデューサー。三重県伊賀市出身。多摩美術大学卒業。2019年に、「これからの本好きを育てる書店」がコンセプトの予約制書店「夢眠書店」をオープン。ミントグリーンのたぬきのキャラクター・たぬきゅんと、その仲間であるラビやん、コアラさんによるイケメンアイドルユニット「たぬきゅんフレンズ」のプロデュースも行う。
夢眠書店のホームページ:https://yumemibooks.com/
夢眠ねむさんのnote:https://note.com/yumemibooks
目次
たぬきゅんと私は、タレントとプロデューサーという関係
――夢眠書店とキャラクタープロデュースを軸に活動されていますが、夢眠さんのなかではそれぞれの活動の比重はどんなイメージですか?
夢眠ねむさん(以下、夢眠):表現という意味では、キャラクタープロデュースの方が大きいです。書店は自分で表現するというより、居場所を提供しているという感じに近いかも。私は、自分がいいと感じたものを「これいいでしょ?」ってプレゼンすることが好きなのですが、書店経営とキャラクタープロデュースの共通点はそこですね。
――プレゼン、という感覚なのですね。
夢眠:はい。元々、学生の頃は”観光地”を制作テーマにしていました。私自身が生まれ育った場所もそうだったのですが、観光地って「こんな名物があります! こんな名所があります!」とプレゼンで溢れているのがおもしろい。いいものはもちろん、時にはマイナスポイントすらチャームポイントにして広げていく感じ。
”オススメ”ともちょっと違うというか……。たぬきゅんフレンズは「私が描いた絵です」というより、プロデューサーとして世間に「人間もいいですが、こんなおもしろアイドルもいますよ」とプレゼンしてるイメージ。だから、キャラクターの絵を描いているというより、たぬきゅんというひとつの人格のうしろで「ああやれ、こうやれ」って言っている感じです。実際、たぬきゅんが私の会社にタレントとして所属しているというかたちなので、タレントとプロデューサーという関係性ですね。
――たぬきゅんフレンズは、さまざまなグッズからイベント、最近では劇作家の根本宗子さん作・演出の舞台や、そのテーマ曲“3☆3☆3☆サンシャイン”をリリースするなど、本当にいろんなかたちで展開されていますよね。
夢眠:たぬきゅんは、段階を踏んで大きくなったり、かたちを変えているんです。本当の姿の身長は40cm弱くらいなんですけど、「たぬきだから化けられる」ということで、状況によってかたちを変化させています。「ファンのみんなに会いに行きたいな」と思った2017年に人間くらいの大きさのたぬきゅんが登場しました。
翌年、やっぱり歌って踊れるかっこいい頭身もいいなと思い、3人揃ってイケメン頭身になりました。2019年に私が前の会社を退社して、これからたぬきゅんたちと頑張っていこうと1年ほどアイデアを温めてから、2020年にイケメンアイドルとしてデビューしました。
コロナ禍だったので、アイドルなのにファンと触れ合うことができなかったのですが、今年やっと直接会う機会を作ることができて。老若男女が応援してくれているのですが、すごく小さいお子さんが「あ! たぬきゅんだ!」って言ってくれて感動しましたね。子どもが会いたいと思ってくれるキャラになっているのはすごく嬉しいです。
――たぬきゅんに限らず、制作や表現においてはまず軸を作ることを意識しているのですか?
夢眠:そうですね。まずは譲れないものを決めて、それを中心に肉付けしていきます。何も考えずにいろんな展開をしてしまうと、きっと途中で「これってどうだっけ?」となってしまう。いろんなサイズになれるけど、元の姿をちゃんと設定しているのが大事といいますか。
以前、メイドカフェのあっとほぉーむカフェさんとコラボさせていただいた時には、可愛いメイドになるためにメイド服を着ました。たぬきゅんフレンズは男の子なんですけど、ただ並ぶだけのコラボじゃなくて、メイドの気持ちをしっかりわかってイベントに挑んでほしくて女装することにしたんです。そういう、気持ちの部分も考えていろんなことに挑戦していますね。
――夢眠さんの姿勢はもちろん、化けられるたぬきということで、たぬきゅんには拡張性がかなりありますね。
夢眠:そうそう。でも、周りがうさぎとコアラで、あの人たちは化けられないはずなんですけど、たぬきゅんのパワーでなんとか全体で化けられるようになっているという(笑)。だから、キャラクターでやりたいことが増えても迷いなくやっていけています。
夢眠書店は「いいな」と感じるものを展開するキュレーションの場
――夢眠書店では、様々な絵本やグッズを中心に空間が作られていたり、イベントもたくさんやられていますよね。夢眠さんはキュレーターのような立ち位置なのかなと思いました。
夢眠:「キュレーション」っていう言葉、すごくしっくりきます。まさに、自分がいいなと感じたもの、「夢眠書店が好きな人はこれも好きかも!」と思うものを展開しているんです。夢眠書店ではいろんなイベントを開催しています。美味しいお店に出張していただいてそこのメニューが食べられたり、最近では「占いの日」を作ったり。
夢眠書店は子ども連れのお客さんが多いのですが、普段、行列のできるお店に食事に行くのも占いに行くのも、子ども連れだと難しいと思うんです。他の場所でやっていても諦めてしまいがちなことを、夢眠書店でやることで気軽に行こうって思ってもらえたらいいなと。
――昨年は出版社「夢眠舎」も立ち上げられましたよね。夢眠書店のキュレーター的な役割も含め、表現したい人や表現を求めている人に場所を作ることに関しても積極的な印象です。
夢眠:大手さんだったらもっとお金をたくさん使ってバンバン活動できると思うのですが、自分が好きな人たちが私とやりたいと思ってくれたらなんとか捻り出して頑張ってやってみる、くらいのスタンスです。なんか、私、若干おばあちゃんみたいな感じなんですよ(笑)。
――おばあちゃん、ですか?
夢眠:ちょっと早めに引退した気分なんです。これまでの人生でやりたいことを結構実現できてきたので、私の人生本当に楽しかったなあって余生を楽しんでいる感覚なんです。でも、やっぱりおもしろい人やいいなって思うものって、いつの時代でも新たにどんどん出てくる。だから、おばあちゃん気分で、若い世代からも刺激を受けています。新しいものを見て「何よこれ! キーッ!」となることなく、年齢を重ねるごとに「いいねえ!」っておもしろがっていたい。新しいことを理解できない大人になりたくなくって。私はずっと前から、プレゼンと同じくらい、「自分の好きな人たちと一緒に新しい何かを作ること」が好きなんです。
陶芸、機織り、草木染め…もの作りに夢中だった幼少期
――そもそも、夢眠さんの制作の原体験ってどこにあるんでしょうか?
夢眠:一番最初は、絵を描いたことですね。とにかく親に褒められたのが成功体験になっています。保育園か小学校低学年の時に、架空のおじいちゃんとおばあちゃんを筆ペンで描いて、格言めいたことを添えた日めくりカレンダーを作ったんですよ。それが親世代に好評で、「コピーして!」と注文が入って……すごい部数いった気がする(笑)。それが何かを完成させた最初の作品でした。
――美大に進むことも、早くから決めていたんですか?
夢眠:もう保育園の頃に美大に行こうって思っていました。姉が結構歳上で「そんなに絵を描くのが好きだったら、美大に行くんだよ」って教えてくれて、「じゃあ、美大に行きたい」って思って。
――早い! そこからはずっと絵を描いていたんですか?
夢眠:家族がそれぞれいろんな趣味を持っていたので、絵だけじゃなくて家族と一緒にいろいろ作っていました。父の趣味が茶道で、自分のお碗を作るために伊賀焼をやっていたんです。それで私も小さい頃から一緒に薪を割って、粘土を触って焼き物を作って、市の展覧会に出展したりしていました。母は草木染や機織りをやっていたので、染色のための植物を山に一緒に採りに行っていましたね。地元も工芸品が盛んだったので、組紐を習ったり、とにかく何かを作る環境でした。
たぬきゅんフレンズと、誰かの人生のポイントを彩りたい
――もの作りが身のまわりに溢れていたんですね。家族のみなさんは趣味でもの作りをされていますが、夢眠さんがもの作りを仕事にしようと、明確に決めたきっかけはなんだったのでしょう?
夢眠:小学校の時、『佐藤雅彦全仕事』をずっとランドセルに入れていたくらい佐藤雅彦さんが好きで、私もCMディレクターになるって決めてたんです。CMを作るにはグラフィックとかを勉強しなきゃいけないからデザイン科だ!と思い、中学生の頃から画塾に通い始めました。画塾では「色とは?」など超基本的な勉強から始めて、じわじわデッサンなどの受験勉強に移行していきましたね。
――「好き」という感情を第一優先に進んでいくのは、小さい頃から一貫されているんですね。
夢眠:親が尊重してくれたから良かったんでしょうね。「行け行け〜!」って感じの家だったので。母が元々いろんな趣味を反対されていたらしくて、その経験から私にはやりたいことをやらせてくれました。
――最近焼き物を始めたのもお父様の影響ですか?
夢眠:夢眠書店に父や好きな作家さんの器を置いているのですが、私も大人になってから器に興味がわいてきたので自分で新たに始めました。伊賀焼は形式があるし、都内ではできなかったのでやりたいことを自由にやれる「フリースタイル陶芸」に通っています。
陶芸はプロデュースにはない発想が生まれるんですよね。たとえば、プロデュースはたぬきゅんの目の色やかたちが決まっていて、そのうえに新たに何かを乗せていく感覚。でも、陶芸で釉薬で表現するんだったら、たぬきゅんの目のまわりをピンクにしても成立するなとか、根本的に表現や手法を変えて冒険できます。
――ご自身で生んだものを二次創作している感じですね。
夢眠:そうそう! 本当にそんな感じです。非公式グッズを作っているような気持ち(笑)。だから、陶芸をやっている時は、二次創作でありつつ、一番作家っぽい気分かもしれないです。
――2019年頃から、SUZURIでもたぬきゅんフレンズをモチーフにしたアイテムを販売されていますね。?
夢眠:SUZURIは、スマホケースとか、最新機種が出てどんどん規格が変わっていくものや、落書きっぽいものを商品化するのに使っています。気に入ってくれる人がひとりでもいたら、1個から商品を作れるので、ラフに描いたり、ネタっぽいものとか、普通に売ったら売れないかも……みたいなものを(笑)。思ってもみないものが人気だったりするので、売上を見て方向性を掴んでいます。
今後はもっと公式らしいデザインも増やしていこうかなと。思い立った時にすぐ実行できるのも、SUZURIの良さですね。
夢眠:グッズを作るうえで、「在庫を持ちたくない」と思ってSUZURIを始めたんです。それまでは所属していた会社がたぬきゅんのグッズを作ってくれていたので、私個人としては在庫管理まで考えが及んでいなくて。独立した時にまわりの人たちから「在庫管理代もバカにならないよ」と聞いて、そうなんだ……と。最低ロットが決まっていたりすると、在庫が残った時に、せっかく気持ちを込めて作ったものを叩き売らなきゃいけなくなって悲しいですからね。
――夢眠さんが今後挑戦してみたいことはありますか?
夢眠:表現とか創作ではないのですが、たぬきゅんフレンズで結婚式の営業に行きたいなって思っています(笑)! 実は、たくさん要望をいただいていて。確かに、たぬきゅんフレンズが好きって言ってくれている方の一生に一度の大イベントでお祝いできるってめちゃくちゃいいなと思ったんですよね。
他のテーマパークでの結婚式を見てきたのですが、やっぱり好きなキャラクターにお祝いしてもらえるって思い出に残ると思うんですよ。たぬきゅんたちだったら「ちょっと待ったー!」とか、他のキャラクターにはできない演出もできますしね(笑)。いつかハレの日にたぬきゅんフレンズが遊びにいける仕組みを作って、誰かの人生のポイントを彩りたいと思っています。
<編集 小沢あや(ピース株式会社)>
<構成 飯嶋藍子>
<撮影 小原聡太>
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